「白バラ」とゾフィー・ショルの手紙

2005年に映画『白バラの祈り ゾフィー・ショル 最期の日々』がドイツで制作されました。それは、1942年から翌年にかけて起きた「白バラ抵抗運動」の実話をもとに描かれた作品です。

戦後のドイツでは、「白バラ」と呼ばれるレジスタンスの活動、なかでもその中心人物であったショル兄妹に惜しみない賞賛が与えられているのです。
ドイツ国内では白バラのデザインの記念切手も販売されました。

「白バラ」の活動ですが、第2次大戦中にミュンヘン大学の学生で構成された反ナチス抵抗組織のことで、この作品の主人公ゾフィー・ショルは首謀者であるハンス・ショルの妹です。

たった半年程度の地下活動、そして、国家反逆罪により21歳という若さで斬首刑にされたゾフィー。
その最後の日々は、あまりにも鮮烈です。

史実も踏まえ映画の内容を少しだけ紹介します。

白バラ抵抗運動は反ナチスの抗争

組織の主な活動は、ナチスへの抵抗と戦争早期終結を呼びかけたビラを作成し各所へ郵送するもの。
あるとき、若い兄妹は、余ったビラをミュンヘン大学構内で蒔くことを計画。

1943年2月18日昼前、まだ閉まっている講義室の前と廊下に1,000枚以上のビラを置き、残りも全て撒こうと3階吹き抜けからトランクの中の残りを玄関ホールに落として撒きました。
大量のビラが舞う玄関ホール。

残念なことに、それをナチス党員の学校関係者に目撃されてしまい、二人はその場で秘密国家警察(ゲシュタポ)に逮捕されてしまいます。
容疑を否認し一旦は釈放されるかに見えたものの、直前に証拠となる大量の切手やビラの原稿などが押収されます。
万事休す!
覚悟を決めたゾフィーは一転、容疑を認めるとともに、自らの良心、正義の主張を展開します。

捜査官はまだ若い女性であるゾフィーを見てこう誘導したといいます。
「兄(ハンス)にそそのかされただけで何も知らなかったと証言しなさい。そうすればあなただけでも助かる。」

しかしソフィーははっきりと言い切ります。
「私は自分が何をしたかを理解しています。もし機会があるならば私はもう一度同じことをします。」
「私は間違ったことをしていません。間違ったことをしているのは、あなたたちの方です。」

ドラマのクライマックスの舞台は悪名高き「人民法廷」。相手は、ナチスの古参ローラント・フライスラー。
彼は、不法な見せしめ裁判で数千人に死刑判決を下した不当な判事です。

逮捕からたったの4日後、形だけの裁判で、夢も将来もあった若者達は反逆罪の汚名と共に、判決のその日のうちにギロチンでこの世を去りました。
1943年2月22日のことです。

しかし、処刑前の最終弁論でゾフィーが判事フライスラーに毅然と言い放った言葉が胸をえぐります。

「今にあなたがここに立つわ!」

映画は処刑のシーンで終わりでしたが、
史実では、それから2年後の同じ2月に、フライスラーは空爆で死亡。
人民から裁判で裁かれることはなかった彼は、死しても尚、人道の歴史から永遠に裁かれることとなったのです。

ゾフィー・ショルの最後の手紙

ところで、逮捕の前日にゾフィーが友人リーサへ送った手紙には、まさか数日後に自分がこの世から消えてしまうことなど考えも及ばない、若者のまぶしいほど溌溂とした生命力が踊っています。

「今、蓄音機で『鱒(ます)』の五重奏を聴いているの。(中略)このシューベルトの作品からは文字通り空気を感じ、香りを嗅ぎとり、鳥たちと全被造物の歓声を聴きとれるのね。
ピアノで繰り返される主題 ― まるで冷たく澄んだ泡立つ水のよう。ああなんてすばらしい。」