漂流郵便局

いまでは単行本も出版されて有名になった「漂流郵便局」。
以前、人気タレントの有吉弘行さんと結婚した同じく人気の夏目三久元女子アナウンサーが、現役時代に情報バラエティ番組「あさチャン!」(TBS系)で手紙を朗読中、亡くなったばかりの祖母を思い出して感極まって涙する一幕があり話題になりました。

「漂流郵便局」のコンセプト


漂流郵便局は、香川県三豊市詫間町の粟島にある木造の旧粟島郵便局舎を改装して開設された美術館。
出版された本のサブタイトルには”届け先のわからない手紙、預かります”と。
既にこの世にいない人への思い、過去や未来への自分へのメッセージなどが次々に送られ、この瀬戸内海の小さな島の小さな郵便局に”漂流”した手紙は既に4,000通を超えると言われます。

紹介されている手紙はシリアスなものだけではありません。
往復はがきの「M高校 昭和37年卒同窓会」の案内欄の余白には、「天国の友よ 当日は全員UFOで来るよう」と書かれていて、思わず笑いを誘うものも。
また、局長の中田勝久さんと差出人との交流も心温まる内容です。
写真も多く、現地に赴けない読者への配慮が感じられる一書です。

この郵便局のテーマの一つは 『「時間(字間)」と「空間」を超越した心の世界』 ともいえるでしょうか。それらが芸術の中で表現されるとともに、差出人は悲哀との決別を、運営している局員さん達も使命感への昇華を遂げ、お互いが何か大きなものに突き動かされている、その中心がここ「漂流郵便局」なのかもしれません。
ロゴマークは郵便の消印をモチーフにしていますが、日付表示は[00.00.00] 。
局内にはハーフミラーガラスの「地球儀」ならぬ「惑星儀」が置かれ、漂流する手紙にやさしい光を送ります。
制服にも配慮があり、襟元は明治時代の海運に携わっていた郵便局員の「セーラー服」を参照しているとか。


ちなみに、「漂流郵便局」の英語表記は「MISSING POST OFFICE」。MISSING(ミッシング)は「さみしい」「行方不明」といった意味があるそうです。

これから更に進むデジタル文化の中で、決して消えることのない人間の心と、時空を超えるアナログ文化の究極を、この空間に見る思いがします。
今回の出版を機に「MISSING POST OFFICE」が世界的に有名になると、欧米やアジアからも手紙が届くようになるのでしょうか。英語、ドイツ語、フランス語など、翻訳も大変になるなあと老婆心ながら心配したりします。著者である局員の久保田沙耶さんは幼少期は香港にいらしたそうなので中国語は大丈夫かと。

ところで、”宛先のわかる”手紙を配達してくれる郵便配達さんの使命も大きいと思います。雨の日も風の日も、寒い雪の日も「心」を運んでくれているのですから。